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第2568日目 〈初めての店で買い物(ネット通販)したら、大満足な結果で終わりました。〉 [日々の思い・独り言]

 旧国名を屋号に冠した店で本を買った。インターネット通販のそのサイトを覗いていたら、現物を見ること年に一度ありやなしやでオークションサイトや古書店のサイトに出品されれば絶版ゆえに高値が付く、大好きな漫画家のコミックスが安価で売られているのを発見したのだ。しばし検討の後、その漫画家が連載していた少年誌の創刊40年を記念した特別号と江戸川乱歩の『探偵小説四十年』上下を一緒に購入した。
 その直前にブックオフ・オンライン(以下BOL)で購入した文庫が、外からもはっきり判別できる程の<イタミ>──ヌレとシワ、ヤブレてふ三拍子揃った状態で送られてきたことに呆れ果て、交換か返品・返金いずれかを求めるメールを出したら対応するカスタマーサービスの凄まじき恫喝、上から目線かつ投げやり対応に落胆してここに代わる通販サイトを探していた矢先に出会ったのが、冒頭に述べた旧国名を屋号に冠した店のサイトだったのである。勇を鼓してここで買い物してみようと思うたのは、勿論好きな漫画家のコミックスが売られていたこともあるが、と同時にこの店のレヴェルを見極めるといういやらしい理由もあった。が、それを見極めずして買い物なぞできるものであろうか。否。
 さて、BOLのシステムに馴れた者にはそこからが長かった。注文確認のメールが来たはいいが、発送や支払いに関するメールは待てど暮らせど送られてこない。もしかすると多量の迷惑メールや不要メールに混じって削除してしまったのか。確かめようにも<ゴミ箱>にはもはやそれらのメールは一通たりとも残っていない。不安に駆られてそこのカスタマー・センターに電話したら、BOLのように一拠点でなく各店舗にて在庫管理が行われているので、商品がすべて揃った時点で支払いやその後の発送にまつわるメール連絡がされる由。それを聞いて安堵した。けれどもその一方でこうも思うた、最初のメールにそれを書いておいてよ、と。
 さりながら当面の懸念は去った。あとは待てばよい。そうやって日が過ぎ、一週間ばかりが経った或る日、待ち望んでいたメールが来た。曰く、商品は全点揃った、状態に支障なし、ついてはいついつまでにどこそこの口座へこれだけの金額を振り込まれたし、入金確認後は早急に発送手続きを行い貴兄の許へお届けしよう、と。そうして指定された口座へお金を降り込んだのだが、今度はそこからがまた長く感じられ……1月末日。ようやっとそれは到着した。購入のクリックから約10日。もうちょっと経っていたかな。
 なお、これは2回目の買い物で経験したことだが、発送準備完了のメールから一定期間入金するのを忘れていたりすると、所謂督促のメールが送られてくる。いついつまでに入金が確認できなかったら今回の注文はキャンセルさせてもらうぜベイビー! って趣旨の。ここまで軽い文章ではないけれどね、誤解する人がいるかもしれないから念のため。
 到着した段ボールを、なんとなく左右に振ってみる。カサともゴソとも音がしない。過剰なまでの隙間埋めがされているのか。どんだけの緩衝材を詰めたんだ。そんな風に思うても仕方ない程に、微塵も中身が動く形跡はなかったのである。開梱前から溜め息を内心で吐いてしまったが、気を取り直してカッター片手に開梱作業。そうして箱を開けた目に飛びこんできたのは──あのお馴染みの緩衝材たち……丸められた新聞紙や油紙、円柱形のビニール・クッションや色を塗ったら遠目にはスナック菓子と偽ることもできそうな小指程の大きさの発泡スチロールなどではなく、段ボール箱の底と同じサイズのボール紙の上に一段が均一な厚みになるようにして重ねられた本があり、それら全体をわずかのズレもないラップ包装が施されており。倉庫で梱包に携わった経験のある方なら実感されることだろうが、複数の商品をズレたり傷附けたりすることなく(たとえば本なら縁が曲がったりしないように)ラップ包装するのは技術が必要なのである。まぁ、1日で習得できてしまうような技術だけれどね。加えて乱歩については、これが店舗在庫だったのだろうか、2冊共に丁寧にビニール封されており、管理カードが入ったままである。管理カードを抜かずに送られてきたのがルールなのか人為的ミスなのか定かでないが、この梱包の丁寧さにはびっくりし、感動し、ひとえに嬉しかった。一回一回の作業に手抜きがなく、心配りがされていて、ブックオフ・オンラインのように機械的なスピード重視品質低下の流れ作業に堕していない証しといえよう。
 わたくしがBOLについて斯くまでいうのは、エンド・ユーザーとしてのみならずそこで働いて出荷に携わっていての実感と反省に基づくものである。とまれ、今回の、ここでの初めての買い物はじゅうぶん満足できる結果に終わった。
 ここがBOLと大きく異なるのは、取り扱いジャンルの傾向がサブカルに重きを置いており、従って商品も書籍や音楽・映像ソフトのみならずフィギュアやトレーディング・カード、AV機器、同人誌や同人ソフトなどなど多岐にわたる。このあたりはまんだらけと同じと思うてよいか。もっとも、まんだらけでは乱歩はともかく、内田百閒の随筆や田中阿里子の歴史小説が取り扱われることはないと思うけれど。
 前述の文庫の一件があるまで、わたくしはBOLに相応の信用を置いていた。が、それは本来ならば出荷する以前に入庫させるべきですらなかった商品を、検品を疎かにして発送したことで(ちなみにそれはサイトのガイドラインにも同様の趣旨が明記されていて、またスタッフの研修に於いても徹底されているはずなのだが)地に堕ちた。カスタマー・センターの担当者の対応がそれに拍車をかけた。一事が万事である。
 信用失墜しようが先方にはわたくし以外の顧客が何十万といることだから屁とも思わぬだろうが、BOL以外の買い物先を探す必要が今回生じたことで、もとより屋号のみは知っていたその店で今回不安混じりの初めての買い物をしてみた。これは大当たりであった、と報告しておく。取り扱いジャンルの傾向とわたくしの嗜好が大なり小なり齟齬を来していることから、一ヶ月に一度程度利用すれば上等といえるが、今後も折に触れてここで買い物するであろうことは確かである。初回の満足はその後も継続されており、一度限りの奇跡ではない、とわかったからだ。
 その店の屋号は、駿河屋である。◆
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第2567日目 〈仕事帰りの<巣>を探すことの困難について。〉 [日々の思い・独り言]

 つくづくと過去の勤務地が恵まれた場所にあったことを痛感している今日この頃。
 いや、いまのところも新宿なんていう幾らでも候補地が見つかるはずの場所なんだけれど、然に非ず。人が多くて店内が狭くて、しかも閑散とする時間帯がないという、却って悪しき傾向に囚われた場所なのだ。
 乗換駅にも何カ所かあるけれど、北と南に日本有数のオフィス街を抱えるゆえにどこもかしこも混雑、混雑、混雑。店内は狭く、自分が立ち寄れる時刻に閑散とすることはまずあるまいという具合。しかも新幹線や長距離バスの利用客もいて混雑に輪を掛けるっていうね。大型書店の裏手にひっそりとたたずむ喫茶店/カフェもあるのだが、こちらは閉店時間が他より1時間も早いとなれば、ここも使い勝手が良いとは到底いえない。嗚呼!
 いまは通勤ルートにあって帰宅に支障ないエリアの探索と、そこにあるカフェをネットで探して訪ね、判決を下す日々を送っている。明日は地下鉄の途中駅にある店を偵察してみよう。そこも使えないとなれば、……平日は原稿を書いたりするのに相当な支障が出ることは疑うべくもない。金曜日ならば穗乃果ちゃんの実家近くにある喫茶店/カフェに(乗換駅を通り越して)こもることも可能なのだが……。
 それにつけても、おお、神保町と横浜は恵まれた場所であった。かというてまさかサード・プレイス/アトリエ/《巣》欲しさの一心から異動希望を出すわけにもゆかぬ。それは社会人として褒められたことではない。困った、困った。
 考えあぐねてみくらさんさんかは一つの結論に至る──いっそ、新宿御苑近辺や神保町/淡路町あたりにマンション買っちゃおうか、と。やれやれ、愚昧なる妄想よ。◆
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第2566日目 〈小説完結のお知らせと、これからの本ブログのこと。〉 [日々の思い・独り言]

 2017(平成29)年04月06日を以て、昨年10月02日からこっそり更新を続けてきた小説『ザ・ライジング』完結と相成りました。ここに謹んで昨日まで忍耐強くお読みいただいた読者諸兄に感謝の意を表したく存じます。
 顧みれば2003年1月10日に筆を起こし、途中人生を揺るがすようなアクシデントがあったけれどなんとか気持ちを奮い立たせ、同年12月末日に第一稿の筆を擱いたのでした。その数日後、舞台となった静岡県沼津市を訪れ、ぼんやりと日暮れの駿河湾を眺めて過ごしたものでした──そこには子供の頃の思い出がいっぱい詰まっている……。
 こうして電脳空間にて不特定多数の目に触れる形で公にしたことは、本作が孕む大小様々の瑕疵を、作者のわたくしへ突き付けることにもなりました。でもこれはとっても貴重な経験で、読者の顔が見えるSNSではどうしても馴れ合いになってしまい、こちらとしてもどこかに甘えた気持ちを抱いてしまっていたことでしょう。目に付いた部分は手入れして風通しを良くしたり、加除訂正を加えたりしていましたが、それらはあくまで小さな箇所に対しての手入れでしかなかったので、今後折を見附けては全体を見渡した更なる改訂作業に入りたく思います。
 半年にわたるご支持ご愛顧ご愛読に、改めて御礼申しあげます。どうもありがとうございました。
 実は本作には既に形になった番外編ともいうべき短編が存在します。こちらも少し時間が経ったら同じようにお披露目できたらいいな、と考えております。



 ──さて。聖書という本ブログ最大の<レーゾン・デートル>を失ったあとの喪失を埋める意味もあって、昨秋から『ザ・ライジング』をお披露目してきたわけですが、お察しのようにさっそくわたくしは今後のことに頭を悩ませております。
 <死海写本>や<グノーシス主義>、或いは聖書やキリスト教に関するエッセイも書きたいという希望はあってもなかなかそちらへ意欲が駆り立てられることが(残念ながら)なく、同様に「マカバイ記・一」と「エズラ記(ラテン語)」の再読書とそれに伴うノートの執筆・お披露目も叶うことがなく……。
 現在は書評というのもおこがましい読書感想文を清書して、ここで発表してゆくことで延命することをかなり真剣に検討しております。モレスキンのノートを開けば、推理小説に偏るけれどそれぞれの作品について書いた文章が、定稿未定稿の別なく眠っている。これらを一つ一つ取り挙げて手を施してあげれば、それなりに読めたものとなるように思うておる次第であります。
 更新頻度については、たぶん落ちるでしょう。わたくしを取り巻く現状/環境が毎日定時更新を難しくしております。ゆえ、『ザ・ライジング』完結後はしばらくの間、週に1回の更新となってしまうことをあらかじめここで申しあげておきたく思います。
 愛ある読者諸兄よ、今後ともどうぞ宜しくご支援ご愛顧ご愛読の程、お願いいたします。

 「互いに相手を受け入れなさい。」(ロマ15:7)◆
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第2565日目 〈『ザ・ライジング』エピローグ 1/1〉 [小説 ザ・ライジング]

 二〇〇三年十二月二十五日、午後一時二十三分。
 室内は閑散として実際以上に広く見えた。昨夜目が覚めたときにそばにいた看護婦に訊くと、ここは自宅から一キロばかり離れた市道町の千本病院だという。真南に面しているため、冬のやわらかな陽射しが差しこみ、暖房を入れる必要を感じないぐらいだった。眼下には子持川がさざ波をきらめかせて流れている。本来は二人部屋なのだが、いまは希美一人ということもあって、室内を仕切るカーテンは取り外されている。空いていたベッドやテレビも、ロッカーさえも運び出されていた。実際以上に部屋は広く見える。沼津署の計らいということだったが、大げさだな、とそれを聞かされたとき、希美は苦笑しながら思った。この部屋のある病棟の看護婦達からは、どうやら警察の関係者であると思われているらしい。ベッドで眠る希美を訝しげに見る看護婦の視線から、重要人物待遇で慮られているのがよくわかった。さすがに面と向かってはいわないけれど、「あなた、いったい何者なんです?」と問いたげな看護婦の視線がときどき感じられた。
 いま、病室には彼女の他は誰もいない。静かだった。希美は広げていた新聞をたたんで、テーブルに置いた。同じように四分の一の大きさにたたまれた新聞が何紙か、既に積み重ねられている。どれも目覚めてすぐ、看護婦に頼んで揃えてもらったものだ。目的は白井正樹の死亡記事。どの新聞もほぼ似たような扱いでその記事を載せていた。通り一遍の事実だけが綴られ、テレヴィで知った以上の情報はまったく得られなかった。それは即ち、希美が求める情報は欠落していることを意味していた。池本先生はなんで私の大切な人の命を奪ったのだろう。そこに痴情のもつれがあったのか、それとも、たまたま白井がその場に居合わせてしまったのか……。それを希美は知りたがっていた。池本玲子は逮捕されてから何一つ喋ろうとしていないらしい。
 深く長い溜め息がもれた。視線が新聞の山から窓外に向けられた。
 一生忘れられないクリスマスになっちゃったな……。なんだかふしぎ。この半年で両親と死別し、将来を誓った男性と出逢い、永別した。いったい今年ってなんていう年なんだろう。
 扉をノックする音が聞こえた。「はあい?」と返事すると、細く開けられた隙間から美緒が顔を出した。前髪が目にかかり、唇が薄く開いて心配そうな顔つきだった。扉を後ろ手に閉めて所在なげに立つ美緒に、希美は坐るよう促した。小走りに示された丸椅子へ移動する美緒を見て、希美はやすらかであたたかな気持ちを胸の底に覚えた。と、それと共に、なにごとかを隠している表情でもあるのが、気にかかった。しかし、それはあまりいまは気にならなかった。美緒がここにいるというだけで幸せだったからだ。
 「もう起きてるんだね。よかった……」
 「いろいろ心配かけちゃってごめんね」毛布の上で両掌を合わせて希美はいった。「でも、うれしかった。みんなが来てくれて……真里ちゃんや田部井さんまで」
 頷きながら美緒は「みんな、希美ちゃんが好きなんだよ」といった。「警察や消防署の人がたくさんいて、びっくりしちゃった」と笑顔で付け加え。
 それからしばらく二人の間に沈黙が訪れた。が、決して居心地の悪い沈黙ではなかった。むしろ幸せさえ感じられる沈黙だった。彩織や藤葉、真里のときとは異なるそれだった。――沈黙は美緒の「そうだ」という小さな声で破られた。
 「希美ちゃんに渡すものがあったんだ」そういいながら美緒はトートバッグの中を漁った。「それで一人で来たんだよね……」
 「渡すもの?」おおよそ察しはついたが、そうか、あれを美緒ちゃんに渡していたんだっけ……。
 「うん、そう。――あ、これだ。はい」と美緒が差し出したのはA4大の茶封筒だった。中身は死のうと決めた直後に電気のつかない自分の部屋で綴った日記帳だ。美緒ちゃんへ送っておけば安全だ。そう思って封筒に宛名を書いたのは、果たして本当の出来事だったようだ。記憶が混濁していないことに、感謝。
 「日記だね」
 「今朝届いたの」美緒がいった。「ごめんね、――最後の日の日記だけだけど、読んじゃった」
 「謝らくていいよ。読んでもらうつもりで送ったんだから」封筒を受け取りながら希美はいった。
 「希美ちゃん……」美緒は涙のあふれてきた顔を両手で覆いながら、丸椅子からベッドの縁に腰を動かした。そのとき、美緒の頭の片隅を、赤塚さんのことは黙っていよう、という思いがよぎった。それは、また別の機会のお話だ。ややあって、すすり泣く声が病室に響いた。
 「ふーちゃんを責めないでね。私が内緒にして、って頼んだんだから」希美は手を伸ばして優しく美緒を抱き寄せた。気のせいか、泣き声はほんの少しながらやんだような気がする。胸元がやけに熱く感じられる。そういえば、この前は逆だったっけ。希美は数日前をふと思い出した。
 それから何分かして美緒が希美から離れた。涙で濡れた顔をハンカチで拭いた。照れ笑いを浮かべる美緒をこんなに愛しく思ったことはなかった。
 ……ふいに欠伸が出た。時計を見ると――誰かが買ってきてくれたのかしら、この時計?――起きてからもう二時間が経とうとしている。まだ体力が回復したわけでもなく、日常生活を支障なくこなせるレベルではないよ、お金は心配しなくていいから、今年は病院で検査とリハビリに専念しなさい、とさっき検診に来た河井医師がいっていたのを思い出した。長時間起きているのは体に負担をかけるだけ、ってことか。静岡の叔父さんは海外出張中で連絡がつかない、ともいっていたっけ。
 「もう帰るね。希美ちゃん、疲れているみたいだし」そういって美緒は立ちあがった。希美は美緒の気遣いに感謝して、敢えて引き留めようとしなかった。「明日の面会時間にみんなで来るね。……若菜さんも一緒の方がいい?」
 「うーん……」と希美は腕組みをして何秒か考えこんだ。「じゃあ、お願い。着替えを用意しなくちゃならないから」
 美緒は頷いて「それじゃあ」というと、手を振って病室を出て行った。
 希美はそれを見送ると、そのままベッドへ倒れこみ、毛布を顎の下まで引っ張りあげた。天井を仰いでなにとはなしに、来し方へ思いを馳せた。
 ――。
 深町希美は一時間後に寝に就いた。そうして夢を見た。それは大きな海原を望む砂浜を、自分よりも背の高い誰かと一緒になって歩いている夢だった。◆
『ザ・ライジング』完


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第2564日目 〈『ザ・ライジング』第5章 24/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 美緒が行ってしまうと、希美と藤葉だけがその場に残された。二人には友人と救急隊員達のやりとりが、ずっと離れた世界でのさざめきのように、そして、現実の外側の世界から聞こえてくるように感じられた。自分の体を支える藤葉を気遣って、希美は「もう大丈夫だよ」といった。
 「もう死のうなんて思わない、って約束して」と藤葉がいった。途端、涙があふれてき、希美の顔に何粒か降りかかった。「ののちゃんがいなくなったら、私、私……」
 「安心して、ふーちゃん。――私はもうここにいる。ね?」と希美。てへてへといつもの笑みを浮かべながら。そして、「でも、私の台詞じゃないよね」と付け加えた。
 救急隊員らがようやく立ちあがって担架を持ち直し、再び走り始めた。陣頭指揮を執っているのは彩織だった。
 それを背中越しに眺めていた藤葉に、希美は心配げな表情で声をかけた。
 「ふーちゃん――あのことは……部室でのこと……」
 「うん。誰にも話してない――約束したじゃない」と藤葉は答えた。「話すかどうかはののちゃんが決めることだと思ったから……」
 そうだね、とか細い声でいいながら希美は頷いた。「ごめんね。心配かけて」
 視界の端に三体の、光に包まれた人影が現れた。何気なしにそちらへ目を向けた希美は、あっ、と小さな声をあげた。それきり黙りこくってしまった。藤葉がそれを耳にした様子はない。救急隊員達に「早く!」とせかしていた。希美の視線の先には両親と白井正樹が立っている。三人とも打ち解けた様子で談笑していた。本当の親子を思わせる親密さだった。三人はそれぞれに希美を見つめた。もうなにも語りかけてこないが、彼等の瞳は彼女を想う気持ちに満ちあふれている。――あなたに希望を託して死んでいった人々の想いを裏切らないで。それはもしかすると成長した私じゃなくて、パパやママ、正樹さんからの言葉だったのかもしれない、と希美は少しずつ意識の遠のいてゆく中で呟いてみた。もう弱音なんかいわないよ、――ありがとう。ありがとう。
 ――頼りない騎兵隊が到着した。〈旅の仲間〉の三人プラス真里に声をかけられながら、希美は自分が担架に乗せられ、毛布を掛けられ運ばれてゆくのを感じた。体力の消耗と疲れは極みに達していた。そのせいもあってだろう、そのまま深い眠りの淵へすべりこんでいった。◆

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第2563日目 〈『ザ・ライジング』第5章 23/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 ぼやけていた視界が時間を経るにつれて焦点を結んでゆく。声はすれども姿は見えず。暗闇の中で置き去りにされて声の聞こえる方向へ足をそろりそろりと踏み出す。そんな感覚が心をかすめていった。十数センチしか離れていないところに〈旅の仲間〉の他の面々が揃って自分を取り囲んでいる。激しくむせて意識がはっきりと現実へ戻ってきたときから、それはわかっていた。なのに視界は真っ暗なまま。失明したのかな、と思わないでもなかったが、それにしては、近いところでゆらゆらと光の影がゆらめいていた。一つではなく、幾つも。初めは、幻かしら、目が見えなくなったからこそ見えるもう一つの世界かしら、と思いもしたが、だんだんとそれは寄り集まって大きくなり横に広がり……元いた世界の光景が視界に映りこんでくるようになった。夜の世界にも色彩はある。そう希美が知ったのは、このときだった。ほんの少し眼球を動かすと、藤葉と目が合った。髪ばかりか全身がびしょ濡れだった。白井と決別した刹那の後に聞こえたのは、藤葉の声だったのだ、と合点した。泳いで私を助けに来てくれたんだ、と希美は思った。
 「ののちゃん……よかった……」藤葉が顔をほころばせた。
 「のの……のの……」しゃくり声をあげながら、彩織。
 美緒は涙をぼろぼろ流しながら、必死に笑顔を作ろうとした。
 「ずっと一緒にいてあげればよかった。でも、無事で安心したよ」と真里がいった。
 希美は四人を見あげた。「ごめんね、みんな……。ありがとう……」
 耳をすますと防波堤の方から十数人の男のさんざめく声が聞こえてきた。防波堤のすぐ向こうの空が毒々しいまでの赤色に染まっている。とても慌ただしい雰囲気が、否が応でも伝わってきた。滅多に感じることのない空気だった。無線で駆り出されて取るものも取り敢えず、救急車やパトカーが事故や火災の現場へ集中したときに発生する、緊張で張りつめて落ち着きを失いがちな、あのせわしくも独特な空気。え、これってもしかして――
 「そこの派出所に田部井さんがおったからな。声かけて連絡してもろたんや」と鼻の下をこすりながら彩織がいった。
 「――それにしてもずいぶん来たなあ」防波堤のスロープを降りてくる警官や担架を持った救急隊員達を眺めた真里が、半分呆れた顔でいった。その手はずっと希美の手を握りしめている。そして「よかった……」と呟いた。それは折から吹いてきた風のいたずらで誰の耳にも届かなかった。
 沼津署の面々の先頭には田部井が立っていた。後ろの救急隊員達に希美のいる場所を指で示し、せかしている。こうして見ていると、刑事だった頃の片鱗を窺えるようで面白いな、と束の間、希美は思った。濡れた砂浜に足を取られながらも、数人が近づいてくるのがわかる。と、後ろの一人が足許をよろめかせてうつ伏せに転んだ。わずかの間を置いて、他の三人も砂浜へ倒れこんだ。
 彩織が額をぺちんと叩き、あちゃあ、と呻き、真里と共に救急隊員らの傍らへ走り寄った。まだ新人なのか、砂浜での行動は不馴れのようだった。女二人では難儀しそうだ、と判断したか、美緒もそちらへ足を向けた。立ちあがったとき、ちら、と窺うような眼差しで美緒がこちらを見やるのに気づくと、希美はやわらかな笑みを見せて、ゆっくりと頷いた。□

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第2562日目 〈『ザ・ライジング』第5章 22/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 どうにかして足の届くあたりまでくると、藤葉は片膝をついて立つと、波の来ない場所まで希美を引きずっていった。雨に濡れて湿り気の増した砂浜に、自分の足跡と希美の踵がつける二本の筋が残った。ジーンズや厚手のシャツが肌にぴったり貼りついていたが、重く感じただけで他に寒さや気持ち悪さなどは湧いてこなかった。
 「のの! ふーちゃん!」と叫びながら彩織が寄ってき、希美の両足首を握り持って、藤葉と一緒に、彼女と自分が脱いだコートを重ねて広げた場所まで運んでいった。
 「息は! 呼吸はしてるの!?」真里が訊いた。
 藤葉はぴくりとも動かぬ親友の顔を見つめたまま、「たぶん……。でも、反応がないの」と答えた。
 「ふーちゃん、人工呼吸できたよね? できる、いま?」美緒が不安な表情を向けた。見れば美緒のみならず他の二人の視線も、まるで射すように藤葉へ注がれている。「救急の人達が来るのなんて、待っていられないよ」と美緒。
 「――やってみる」藤葉はいった。希美の双房の間に両掌を重ねて置き、タイミングを計ってぐいと押した。二度繰り返す。屈んで鼻をつまみ、希美の唇に自分を重ねた。必死になって空気を送りこもうとするが、親友の命を助けられるかどうか、まったく自信がなかった。それでも藤葉は憑かれたように人工呼吸を行った。それを傍らにいて、押し潰されそうな気持ちを抱えた美緒が見ていることなぞ、いまの藤葉には構っていられぬ問題だった。
 実際以上の時間が流れたようだった。人工呼吸を始めた希美が最初の反応を見せたのは、きっかり五〇秒後だった。ごほっ、と短くであったけれど、希美がむせるように咳きこんだのだ。三人は歓声をあげた。藤葉はなおもそれを続けた。
 すると希美は体を時折くの字に曲げ、断続的に激しく咳きこむようになった。しばらく続いてやや収まった頃、希美がうっすらと、だが確かに両目を開けた。藤葉は自分の目から涙がこぼれるのを我慢できなかった。□

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第2561日目 〈『ザ・ライジング』第5章 21/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 希美の手を摑んだとき、藤葉は思わず恐怖を覚えた。凍りついたような冷たさが掌から伝わってきたからだ。一瞬ではあったものの、死体みたい、という思いが頭をよぎった。霊安室に眠る妹の死体が脳裏に浮かんだ。天井からの蛍光灯の明かりが妙に寒々しかった。ドラマに出てくる作り物の霊安室や棺と異なって、すべてが白日の下に曝されて白っぽい印象が残っている。とはいえ、病院の地下にある霊安室とそこにいる自分達(両親と祖父の他に美緒がいた。美緒は木之下若菜が息を引き取る少し前からずっと藤葉に付き添っていた)が精密に作られた舞台セットのように感じられたのも事実だった。その霊安室で触れた妹の冷たくなった体を、希美の手を摑んだ拍子に彼女は思い出し、ぞっとしたのだ。
 ののちゃん、死なないで。藤葉はそれだけを願いながら、希美の脇の下から肩へ手をまわして、岸へと泳いでいった。藤葉の視線がなんの反応も示さずぐったりしたままの希美と、こちらを見て希美と自分の名前を連呼する彩織と美緒、真里の間でしきりと動いた。防波堤の向こう側で赤いランプが点灯している。ぐるぐると夜空に円を描いて点滅していた。それは一つではなく、時間が経つにつれて数を増してきている。空の一部が赤い光に染まって、広げられてゆく。時間が経つにつれて続々と、パトカーや救急車が到着してきたらしい。防波堤のスロープをえっちらおっちらと走ってのぼってゆく田部井の姿が見てとれた。足の届くところまで、あと数メートル……。
 「ののちゃん、しっかりして。もうすぐみんなのところに着くからね!」
 そも希美を見つけたのは美緒だった。突然に現れて天空を染めた光の帯が海をも照らし、そこにゆらゆらと揺れる影法師を見たのだ。「ふーちゃん、あれ……」と促され、指さす方向をたどると、重なり合った二人の人影が藤葉の目にも映った。それが希美と、彼女に別れを告げる白井の姿だ、と藤葉は直感した。やがて片方が消え、片方は崩れるようにして海面へ倒れた。美緒が波打ち際まで走り寄って海に入ろうとした。藤葉はそれを視界の端で捉え、真里と共に制止した。それでもなお海に向かおうとする美緒の肩を摑んで、「あんた、ろくに泳げないじゃない。私が連れてくるから、美緒は彩織や若菜さんとここにいな!」と一喝すると、コートトレーナースニーカーを脱ぎ捨て、波打ち際に歩を進めた。なおもぐずる美緒に藤葉は踵を返してなにかいおうとしたが、彩織に「美緒ちゃんのことはええから、ふーちゃん、早う行ってえな!」とせかした。彩織が美緒の手を引っ張って波打ち際から遠ざけようとしているのを見て、藤葉はじゃぶじゃぶと水をかき分けて海の中へ入っていった。……。□

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第2560日目 〈『ザ・ライジング』第5章 20/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 黒い衣の男は去った。消えたのだ。もう姿を現して冥土に手招くこともないだろう。私が死を望まない限りは決して――。
 澄みきった空を見あげると、無数の星が瞬いていた。いまにも降ってきそうでそら恐ろしい気分さえする。希美は己を岸へ寄せてゆこうとする波に身を委ね、虚空に向かって「ありがとう」と呟いた。開かれた目から涙がこぼれた。真珠の輝きに似た大粒の涙が頬を伝い、海へぽちゃりと落ちた。あの人は……正樹さんは身を挺して(っていうのかな。間違えている気がしないでもないけれど)私を助けてくれた。死んでしまってもなお、婚約者の危機に駆けつけてくれた。西部劇の騎兵隊みたいに……ありがとう。死者も愛するってパパがいってたけれど、それってこういうことなんだね。そうなんでしょ、あなた?
 闇の中から「そうだよ、もちろんさ」と白井が応えた。「ついでにいえばね、死者も歌うんだよ」
 希美は声のした方へ視線を流した。少し離れた海上に白濁した光の筒が伸びていた。その中心に黒い粒子が集まって、影法師になってゆく。それは人間の姿になり、容姿を整えていった。光の筒はそれに反比例して薄くなりはじめた。白井正樹の上半身だけが波の上にあった。彼は生前となんら変わらぬ眼差しで希美を見つめている。
 「正樹さん」と希美はいった。一昨日の宵、緑町の自宅のそばで別れたのが、もう何十年も前の出来事に思えた。最後に逢ったときの姿ではあったが、印象はずいぶんと異なった。まるでセピア色にあせた一葉の写真を眺めるような奇異を感じた。私の夫になるはずだった愛しい男性。「あなたの奥さんになりたかったな……」
 白井の手がすっと伸びて、希美の掌を包んだ。この掌を握ることはもうないんだ、と希美は思った。嗚咽が喉までこみあげてきた。涙をこらえるように唇を噛んだ。目頭が熱くなり、涙に視界が曇った。泣かないで、と白井が語りかけてきた。僕まで泣きたくなっちゃうよ。希美は小さく、うん、うん、と頷いて、白井の掌を握り返した。彼は腕に力をこめて希美を立ちあがらせた。そっと肩に手を寄せた。
 そのとき、希美は気がついた。夜空が表情を変え始めたのを。わずかにちぎれて浮かんでいた雲がすごい勢いで南の空の彼方へ移動してゆく。闇の統べる空は黄金色に照り輝き、刹那の後に再び闇へ色を譲り、空には神秘的な彩りを纏った光の帯が現れ、緑色を基調として、ゆらめいて形を変化させた。いつしか光の帯は渦を巻き、奔流となって、空を覆いつくさんばかりの絨毯となって広がっていった。
 光の帯の舞踏はいつしか数千の粒子となって海面へ降り注いだ。幾つかが二人のまわりに音もなく落ちてきた。光に照らされた自分と白井の姿が影となって海上へ伸びてゆくのを、希美は視界の端で捉えた。
 刹那の後、希美はそっと抱き寄せられた。これまでのどの抱擁よりも官能的で居心地のよいそれだった。白井の胸に頬を寄せ、掌をあてた。ともすれば心臓の鼓動も聞こえてきそうだ。結婚したら、と希美は頭の片隅で考えた。ほとんど毎晩、私はここで眠りに就くことになっていたのかもしれない。開いた掌を拳固にし、体を硬くした。これが最後なら、正樹さん、せめて――
 希美は白井の腕から離れ、彼の首に手を回すと、自分から荒々しく唇を重ねた。互いの唇が何度となくぶつかり合い、相手を激しく求め合った。彼がどんな姿だろうと知ったことか。いまキスしている相手は他の誰でもない、私が生涯で初めて本当に愛した男性なのだから。唇を重ねていたのは途方もなく長い時間に感じられた。だが、どんな幸福もいつかは終わりの時が訪れる。希美は唇を離した。唇に残る火照りとときめきと涙の味を、私は一生忘れないだろう。
 お別れだ、と希美ははっきりと悟った。こうして逢うことはもうない。
 「金輪際、死のうなんて思わないよ。もうなにがあってもへっちゃら」と、体が透け始めた白井にいった。気のせいか、白井の顔が安心したようにほころんだ。
 「あなたの分まで生きるから。いつまでも――パパとママと一緒に、正樹さんも見守っていてね」
 白井がにこやかな顔で頷くのを認めると、希美は、てへてへ、と笑いながら手の甲で涙を拭った。力強く、思い切り。
 白井正樹の姿は見えなくなった。周囲には夜半の海の景色が戻ってきている。
 さよなら、と希美は口の中で呟いた。
 それからややあってのことだった。波間に漂う希美が、「ののちゃん!」と叫びながらこちらへ泳いでくる藤葉に気がついたのは。だが、希美にそれへ応えるだけの体力はなかった。□

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第2559日目 〈『ザ・ライジング』第5章 19/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 隣に誰かの気配を感じた。未知の人ではなく、自分のよく知っている人だった。美緒ちゃんかな、それとも、ふーちゃん? いや、醸し出される雰囲気は母にとてもよく似ている。
 希美はゆっくりとそちらを見やった。視線がほんの少し上から感じられた。服装を見るまでもなく、すぐに女性とわかっていた。そして、徐々に希美にもわかってきていた。――隣に立ってこちらを見ているのが、ほんの少し先の時代の自分だということが。
 視線が合った。二十代の希美の後ろから強烈な光が放たれており、その姿はシルエットになっている。まぶしかった。目をすがめて未来の自分の顔を覗きこもうとしたが、できなかった。全身が鳥肌立ち、畏怖を覚えた。
 やがて二十代の希美が口を開いた。「なにがあろうとも生きなさい。死ぬなんて絶対許さないからね」と有無をいわさぬ厳しい口調だった。希美は息をするのも忘れるぐらいに呆然と、相手の視線に曝されていた。「あなたに希望を託して死んでいった人々の想いを裏切らないで」
 途端、夢の中の光景は色を失って消滅し、海の中の世界があたりに戻ってきた。
 溜め息をついて海面を見あげた。目蓋の裏に熱いものが感じられたが、涙はこぼれてくる様子がない。もしかするともう流れているのかもしれなかったが、波に濡れていてはそれすら定かではない
 あなたに希望を託して死んでいった人々の想いを裏切らないで。
 そうだね……生きよう。そのためにも帰ろう。希美は再び形を取り始めた月を見あげて呟いた。さあ、立ちあがろう。まだ泳げるだけの体力は残っているだろう。そう思って体の向きを変え、手足を動かしてみた。が、筋肉が強張っているせいでなかなか思うようにはいかない。ふーちゃんにあのとき、水泳教えてもらっとけばよかったなあ、と後悔しているときであった――
 目の前に黒い衣の男が現れた。いい加減しつこいなあ、と思わないでもなかったが、出てきてしまったものは仕方ない。はっきりいってやりたかった。なんで私なんかにこだわるのよ!? あんた、ひょっとしてストーカー? でも、口は固く閉ざされてどうやっても開く気配を見せない。黒い衣の男が両腕を大きく広げて、希美を囲いこもうと迫ってきた。その様子に思わず、昨日の午後、自分にのしかかってきた上野宏一の姿を重ねあわせてしまった。希美は反射的に身を縮めて、心の中で叫んだ。――っ助けてッ!!
 それへ応えるように、求めてやまない声が囁いた。「大丈夫だよ、希美ちゃん。僕が必ず君を守るから」
 正樹さんがそばにいる。そう思うだけでずいぶん心強い。希美は腕をやたらと動かした。刹那、大きくてあたたかな掌が触れた。それはほんの少しの間だけだったが希美の手を握り、すぐにほどかれて、離れていった。希美は「ありがとう」と呟き、目蓋を閉じた。両親の姿や思い出が、婚約者の笑顔と思い出が、脳裏を過ぎ去っていった。遠くの方で黒い衣の男の断末魔の悲鳴が轟き、海が揺れて波が逆巻き……やがてそれは徐々に収まっていった。希美は急に体が軽くなったような気がした。豊かな黒髪をあたりに散らした希美を、海は優しく浜辺へ誘った。月が情け深い眼差しでその様を見守っていった。
 砂浜では藤葉と合流した彩織と美緒が、田部井と共に希美の名前を叫び、探していた。□

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第2558日目 〈『ザ・ライジング』第5章 18/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 青白い月が見えた。寒々とした印象を与える色だった。月影はときどき歪み、ゆがんだ。薄紗を敷かれたように白濁して映る。幾何学的な形状へ分断されて破裂し、宙を舞い、そうして散ってゆき。万華鏡のきらめきを彼女は連想した。月はもはや無数の欠片となって空中を漂い、ふわふわと落ちてき、海の雪となって、沈みゆく希美の体のまわりを輪舞した。肌に触れたそれは小さくぷつん、という音をたてて弾けた。それを耳にしながら自然と口許がほころんだ。青白く輝いていた月の欠片はやがて希美を包みこみ、彼女の心から恐怖という感情を根こそぎ払いのけて安堵させた。眼球を動かしてきょろきょろと左右を見渡してみた。深い闇を湛えた海がまわりにあるだけだった。有限の命を持つ者の姿はどこにもない。黒い衣の男の姿も見えない。安心したせいか、急に眠気が襲ってきた。眠っちゃ駄目だ。自分にそういい聞かせてみても、本能の要求には逆らえそうもなかった。ゆっくり目蓋が閉じられていった。
 いつしか希美は緑町の自宅の前にいた。これが夢の中だというのはわかっている。そしてこれが、過去でも現在でもなく、他ならぬ未来の光景だということも。子供の手を引いた真里が家の前にいる。明らかに希美が出てくるのを待っている風だ。何度となく視線が希美の家の玄関に注がれている。子供がなにごとかを母に喋り、真里は腰を屈めて耳を傾けた。男の子なのか女の子なのか、ここからはわからないけれど、四歳ぐらいかしら、と希美は思った。真里ちゃんも何歳なのか知らないけれど、相変わらず背がちっちゃいなあ。あれじゃいつかそのうち、子供に身長追い抜かれちゃうね。そう希美は独りごちて微笑した。傍らをセダン型の車が一台通り抜け、二メートルぐらい離れたところで停まった。いまよりも髪が伸びて落ち着いた雰囲気を纏った彩織が、開いたドアの陰から現れた。彩織は手を振りながら真里達に近づき、二言三言を交わすと、希美宅の門扉のノブに手をかけた。そのときだった、玄関の扉が、がちゃっ、と開かれたのは。
 希美はそこから出てきた人の姿を見て、思わず息を呑み、その場に立ち尽くした。玄関から姿を現したのは二十代後半ぐらいの青年と、その手をしっかりと握った幼稚園にあがるかあがらないかぐらいの年齢の女の子だった。一瞬、希美はその青年が白井正樹だと思った。もしかするとこれは、あり得たはずの未来の光景ではないのか、とそう考えてしまった。だが、青年は愛して殺された男性ではなかった。面立ちはどちらかといえば父に似ている。丸顔で穏和な、ぬーぼーとした感じの青年だった。だが、その眼差しには鋭い光が宿っていた。青年は真里親子と彩織に挨拶すると、女の子の手を引き、アプローチの階段をおりて門扉を開けて道路へ出てきた。女の子はにこにこと笑顔をこぼしながら彩織に近寄ってまとわりついた。ちょっとおぼつかない足取りだった。彩織も女の子の頭を撫でてしゃがみこみ、額をくっつけて笑いあっている。青年は優しげな表情で、女の子を「朱美」と呼んだ。「彩織おばさんが困ってるよ」と続けていった。それを聞いた彩織が「ひどいなあ、ウチ、まだおばさんやないよお。(そういいながら、真里に彩織は目をやった)真里ちゃんはもうオバハンやけど」といっているのが、希美の耳にも届いた。真里から脳天に拳固を喰らって、彩織は大げさに顔をしかめて見せ、周囲の笑いを誘った。ずうっと変わらないものもあるんだなあ、と希美は思った。それにしても、子供は女の子で、名前は「朱美」っていうんだ、三代続けて「美」の字をつけているんだね。くすり、と笑いながら、あれ、彩織はまだ独身なのかな、と疑問に感じたとき――□

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第2557日目 〈『ザ・ライジング』第5章 17/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 母の運転してきてくれた車が停まった。若山牧水像のある公園の前だった。彩織は「待ってて!」といい残して降りると、散在する水溜まりに街灯の明かりが映る道路を走り出した。二〇メートルほど前方に防波堤が横たわっている。手前の派出所に電気が灯っていた。誰かが詰めているのだ。――誰やろか。ああ、どうか田部井さんでありますように。田部井さんならのののお父さんも知っている、子供の頃からののを知っている。きっと二つ返事で探してくれるに違いない。彩織はおもむろに立ち止まると、勢いよく扉を開けた。途端、田部井巡査と視線が合った。彼は目をぱちくりさせて、頬を上気させた彩織を見ていた。ぽっちゃりした体を椅子から浮かせて中へ招き入れようとする田部井を制し、彩織は「ののが行方不明やねん。きっとそこの海におるんや。はよ探してえな!」と促した。そして派出所を出て、防波堤へ向かった。後ろから沼津署へ連絡を入れている田部井の声が聞こえた。
 彩織は防波堤の階段を一段おきに駆けのぼった。潮の匂いを含んだべとっとする風が襲いかかり、刹那、たたらを踏んだものの、辛うじてその場に留まった。馴れてしまえば大したものではない。いつもと同じではないか。真夜中だから普段は感じない恐怖が心に巣喰うのだ。闇の色をして彼方まで広がる、不気味な波音を轟かせる駿河湾へ目をやりながら、彩織は怖じ気づきそうになる自分にそういい聞かせた。だってののはもっと怖い思いをしているんやから。
 風に乱れて顔にかかる髪をぞんざいに払いのけ、ぐるりと四囲を見渡してみた。遊歩道の左右に目を凝らすが人っ子一人見えない。海上と砂浜を睨視するも生きとし生けるものの姿はなかった。のの、と彩織は口の中で呟いた。どこへ行っちゃったんや……。
 ふと耳をすますと、世界のずっと向こう側から混声合唱の厳かな歌声が聞こえてくる。彩織には聞き覚えのある歌詞だった。昨年の合唱コンクールで歌ったベンジャミン・ブリテンの《五つの花の歌》という合唱曲、その四曲目「月見草」だった。その可憐な花は夜露に濡れて、世捨て人のように光を避け、その美しい花を夜へ無駄に捧げる。そんな意味の歌詞だ。なんだってこんなときにこんな歌なんや……まるで今夜ののののことを歌っているみたい。もっとも、誰のであれ《レクイエム》なんて聴こえてこんだけマシかもな。
 「ののっ!」海へ叫んだ。吹きつける風が言葉を散り散りにしてしまう。それにもめげず、彩織は口のまわりを両掌で囲って、また叫んだ。「ののーっ!!」
 応える声はなかった。防波堤の突端――今年の夏、希美と二人で坐りこんで夕暮れの海を眺めながら、白井先生に告白してきたら、とけしかけてみた突端に掌をついて、彩織は息を呑んだ。すべてを呑みこんでしまうような闇を従えた海が、目の前に広がっている。知らず涙がこぼれて手の甲へ落ちた。のの……どこへ行っちゃったんや。ずっと一緒って約束したやないの。なのにウチを残してどこかへ行っちゃうなんて……。この幼馴染みの彩織ン様との約束を破るなんて、なに考えとんのや。もう、のののアホッタレ。
 そのときだった、彩織の背後から自分を呼ぶ声に気づいたのは。
 のの?
 ――いや、まさか。希美が後ろからひょっこり姿を現そうはずのないことは、彩織はじゅうぶん過ぎるほどわかっていた。
 彩織はゆっくり振り向いた。そこには、胸の前で手袋もしていない両手を合わせて自分を見つめている美緒が、うつろな表情で立っていた。「希美ちゃんは……」という美緒の眼から大粒の涙が頬を伝い落ちた。
 それを見咎めて彩織はその方を摑んで揺さぶった。
 「ののはまだ死んでない! 泣くんだったら死体見てからにせいっ!」
 目を見開いて呆然と彩織を見ていた美緒が、ややあってこっくりと頷いた。彩織は少し顔をやわらげて美緒の肩を叩くと、「ごめんね。大声出したりして」と謝った。
 頭を振った美緒の視線が一点を結んで固まっている。その様子に不審な目を向け、彩織は美緒の視線の先を追った。自転車が倒れている。見覚えがあった。「ふーちゃんのだ……」と美緒が呟くのを聞いて、彩織はあたりを改めて眺め渡した。
 見計らっていたように、砂浜から希美の名前を呼ぶ藤葉の声が聞こえてきた。彩織は美緒と顔を見合わせると互いに手を取って、防波堤から砂浜へ降りられるなだらかなスロープへ足を向けた。
 かくして〈旅の仲間〉は揃った。あと欠けているのは希美だけだった。□

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第2556日目 〈『ザ・ライジング』第5章 16/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 帰宅して彩織から電話で知らされるまで、真里は白井正樹が殺されたことを知らなかった。連絡を受けてすぐに希美の家に行ってみた。湯あがりでパジャマを着、歯も磨いていたが、それでも行ってみた。誰もいなかった。希美は既に海の中にいた時分である。真里は「自分も海に行ってみる」と彩織に連絡し、普段着に着替えて家を後にした。
 いま、真里は千本浜公園を右手に望む、緑町の住宅街の夜道にいた。この道は、希美が公園を抜けて派出所を避けて渡った、あの片側一車線の道路へ続く。幸い雨はあがっている。真里は小走りにその道を海目指した。
 今日はいろんなことがあったな、と額の汗を拭いながら思った。それも全部のの絡みだ。明け方の夢で真里は希美と元町で買い物をしていた。マンションを出てしばらく歩いたところでは希美にそっくりな少女とすれ違った。電車に乗ってぼんやりと外を眺めていても希美の顔ばかりが思い浮かんだ。自宅のそばまで来たら電柱にうずくまる希美本人と再会した。直感でレイプされたのがわかった。もっとも、一日に二度も、四人の男からとは、さすがに気がつかなかったけれど。いずれにせよ、部活の顧問というのが関わっているのは間違いない。畜生、と真里は口の中で呟いた。なんでののまで……あんな辛い出来事を背負うのは自分一人で十分なのに……なんで私の大切な妹までが。
 街灯の光によって路面へ作り出された自分の影法師を見て、彼女はなんの脈絡もなく、幼かった時代の一コマを思い出した。掌に乗るぐらい小さな焦げ茶色したクマのぬいぐるみを、いつも希美は持ち歩いていた。その日、希美は真里の家の庭で遊んでいた。もちろん、クマのぬいぐるみも一緒だ。なんの拍子だったか真里は覚えていないが、ぬいぐるみの頭の布が破れてしまった。中から粗く刻んだ黄土色のウレタンがあふれ出た。それを見た希美は一瞬の間きょとんとしていたが、次には口許が震え、近所に鳴り響くぐらいに大きな声で泣き始めてしまった。真里はすぐにぬいぐるみもろとも希美を抱きしめたが、手に負えず、なにごとかとすっ飛んできた深町恵美の腕の中で、ようやく希美が泣きやむ様を眺めていた。ののにとってあのクマのぬいぐるみは友だちという以上のなにかだったんだ。そう真里は考えた。あのときの希美の、淋しさとも哀しみとも恐怖ともつかぬ表情を、真里はいまでも忘れることができない。希美があのぬいぐるみを捨てることにひどく反対し、駄々をこねているらしいのを、真里は母から聞いた。……それから数日が経って、真里は希美の家に遊びに行った。すると、驚くなかれ、クマはいた。居間のテーブルの上にちょこんと坐って、こちらを見ている。やあ、真里ちゃん、と黒くて垂れた目は語りかけてくるようだった。希美が喜悦の表情を浮かべて真里の横に並んだ。ママがウレタンを詰め直して縫い合わせてくれたんだ、といいながら。手術は成功したのだ。以来、外に持ち歩くことはなくなったけれど、希美がそのぬいぐるみに注ぐ愛情はずっと強く、濃くなったようだ。あのぬいぐるみはまだいるのだろうか、と真里は自問した。最前の久し振りにあがった希美の家のあちらこちらを思い返してみる。玄関、居間、台所、洗面所、浴室、そして、希美の部屋。カンガルーのぬいぐるみがベッドの上で寝転がっていたのは覚えている。が、あのクマのぬいぐるみだけは思い出せない。捨てたのだろうか? 否、と即座に返事があった。そんなことは考えられない。ののがあのクマを捨てたりするはずがない。ののがあのクマを残して死ぬはずがない。――意思弱になる心を奮い立たせるため、真里は自分にそういい聞かせた。
 真里はいつしか小走りに駆け出していた。スニーカーが水溜まりを踏んで水飛沫が散った。誰もいない夜道に真里の足音と荒い息づかいが響いた。青白くさえざえと冷たい輝きを放つ月が雲間から姿を現し、下界を眺めている。あの月の下は海、海には希美がいる。
 あの片側一車線の道路に出ると、左右を横目で確かめて渡った。まっすぐ伸びる路地を進み、防波堤へ駆けあがる。海を一瞥して彼女は妹の名前を叫んだ。返事はなかった。何度叫んでみても、それは同じだった。
 彩織……お前はいま、どこにいるんだよ……お前からの電話で私はここに来た。でも、ののがどこにいるのかわからない。頼むよ、私よりも早く海に来ているのなら、一分でも一秒でも早くののを見つけだして……。
 真里はまるでなにかに突き動かされでもしたように自然と、足を原や富士の方向へ向けて、防波堤を走り始めた。□

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第2555日目 〈『ザ・ライジング』第5章 15/24〉 [小説 ザ・ライジング]

 藤葉は自転車を停めた。雨で濡れている路面にタイヤが音もなく滑った。脇から水しぶきがあがった。海からは強い風が吹きつけてくる。雨もまだ降りやまぬ天候の下、小諏訪の自宅からずっと自転車を走らせてきた。防波堤の遊歩道に乗り入れた途端、バランスが崩れて倒れ、左の膝小僧をしたたかに打ちつけた。いまもその痛みと疼きを感じる。とはいえ、希美が見つかるまで傷口を見てみる気にはなれない。親友が死のうとしているときに自分の怪我なぞ構っていられるものか。
 手袋をした手で籠に押しこんだデイ・バッグから双眼鏡を摑んだ。黒革のケースから出すのももどかしく目に当てて、海上の砂浜を舐めるように見渡した。どこにも希美の姿はなかった。ののちゃんは絶対この海にいる。寝しなに電話をかけてきた彩織に、藤葉はそう叫んだ。なぜなら藤葉もうつらうつらしながら見たからだ。海の中をおだやかな表情で沈んでゆく希美の姿を。そして、遊歩道から眺める駿河湾の光景を。双眼鏡を覗いて一瞬、ここじゃなかったのかも、と不安になった。が、すぐに、そんなことはない、と思い直した。確信の根拠ははっきりとしないが、藤葉には、もし親友が自ら命を絶つとしたら、この海でしかあり得ない、とわかっていた。
 ののちゃん……。再びペダルを漕ぎ始めた藤葉は、昨年高校一年の初夏、希美と二人で右手の眼下に広がる砂浜で過ごしたときのことを思い出した。思ったより家が近いということがわかったせいもあって、以来、二人はここでとりとめのないお喋りに興ずることがあった。将来のことや恋愛のこと、互いの部活の内輪話等々。その年、冬の日の夕暮れ刻、希美は高校を卒業したら音大に進んで、警察か自衛隊の音楽隊に入りたい、といった。警察? 自衛隊? ダっさー。最初に聞いたときはそう思ったが、数ヶ月後、希美に連れられて浜松市のアクトシティ浜松で行われた海上自衛隊音楽隊の演奏会に接して、当初の印象は吹き飛んだ。それからは藤葉も誘われて都合がつけば(そんな日はほとんどなかったのだが)吹奏楽の演奏会には出掛けていったし、希望通り希美が音楽隊に入れればいいな、と考えている。
 そんな将来の夢を話す希美を横で見ていて、藤葉は中学一年の時に病気で死んだ妹を思い出し、その面影をいつの間にか親友に重ねていた。友だちという以上の奇妙な感覚を初めて会ったときから覚えていたが、いまはもういない妹の姿をだぶらせ、まるで妹へ接するような態度と情愛で希美にこれまで接していたのだ、と知ったのはそのときだった。ののちゃん、お願い、死なないで。妹の分まで生きて……。
 昨日の――何気なく腕時計を見た。もう一時三〇分を回っていた――出来事がまざまざと甦ってきた。吹奏楽部の部室で倒れている希美を発見し、陵辱者に怒りを覚えながらも彼女を介抱したときのこと。ゆっくりと歩調を合わせて隣を歩くものの、なんと声をかけていいのか迷った帰り道のこと。気詰まりな空気に包まれながら駅で別れたときのこと。希美を乗せたバスが遠ざかってゆく宵刻の光景。もしかしたら、もうこのまま会えないんじゃないか、という不安が心をよぎったこと。鳴らない電話に不安になって、希美の携帯電話に何度もかけたのに、留守電にさえつながらなかったこと。死なせてたまるものか、と藤葉は心の中で呟いた。
 彩織から電話があったとき、吹奏楽部の部室での一件を話そうか迷った。結局はいわずにいた。それだけの時間の余裕はなかったし、希美と約束したからだ。誰にも話さない、と。もし誰かに話すとすれば、それはすべて本人が判断することだ。余計なことはしでかさない方がいいというものだ。もしののちゃんが命を落としたら、上野先生、私は絶対に貴方を許さない。
 私に電話する前に美緒にかけた、と彩織はいっていた。藤葉はペダルを漕ぐ足により力をこめながら、そう口の中で呟いた。視線はときどき前方へ、もっぱら右手の砂浜と海に向けられている。彩織にとってののちゃんは家族同然の存在だ。付き合いも長い。私と美緒のそれよりも長い。でも、ののちゃんには彩織以上に付き合いの長い人がいたはずだ。藤葉も何度か顔を合わせ、〈旅の仲間〉の誰彼と一緒にどこかへ出かけたことがあった。隣に住んでいる背が小さくて元気な(ときどきやたらとハイテンションなので疲れを感じるときもあったが)あの人は、名前をなんといったっけ……。お隣のまりちゃん。彩織も希美もそう呼んで実の姉のように慕っていた女性。まり……そうだ、若菜真里さんだ。死んだ妹の名前がその女性の姓だったのが印象に残っている。
 若菜真里さん……ののちゃんが危ないんです。沼津に帰ってきているのなら海まで来てください……。藤葉はそう強く願って、遊歩道を自転車で疾駆した。□

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