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第2587日目 〈子守唄はワーグナー。その夜見た夢は、……〉 [日々の思い・独り言]

 昨日までは《トリスタンとイゾルデ》を就眠の音楽にしていた。今日は《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第一幕、明日はその第二幕……。
 都合三夜、《トリスタン》が子守唄だったわけだが、おお友よ教えてほしい、この間に見た夢のいずれもがもの哀しいそれであったのは偶然と済ませてよいのか否か、を。
 こんな夢だった、──
 一夜めは濡れ縁に坐って背中を丸め、しとどに泣く母を見た。その原因はわたくしだ。母を欺き、放蕩に耽り、遂に彼女の知るところとなっては気も狂わんばかりに喚いてわたくしを詰り、刹那の後には頭を振って泣き明かし。顧みればわたくしは母を悲しませてばかりの人生を過ごしてきた。本来なら孫の顔を見せ、抱かせ、悠々自適とまではいわぬまでも気苦労のない暮らしをさせてあげていられる年齢なのに。家族を作るでもなく、そのために行動するわけでもないわたくしは罪人だ。──そのあと、母の姿は見えなくなって、わたくしは夢から覚めて泣いていた。
 二夜めはYさんを見た。通路を挟んだ両側に小上がりのある居酒屋。顔と名前が一致しない勤め先の人がたくさんいるなか、テーブルを同じうしたYさんが既に退職しているのをゆくりなくも本人から知らされた。もうとっくだよぉ。まわりが賑やかななか、ふと、そのあとで気まずさと焦燥と、心のなかで膨らんでくる或る種の禁忌を覚えた。物理的にはとても近くにいるのに実際はいちばん遠くに……。それからYさんは消えて、わたくしは夢から覚めて空しくなった。
 三夜めは雨のなかをAさんと歩いていた。学校みたいに平べったい建物を出て、門からすこし歩いたところの二股路で他の同僚と別れ、駅に向かう。田舎だ、そこは。樹木から枝が大きく張りだして覆う下の道を、無言で歩いた。小高い山の斜面に作られた道らしかった。右手には麓の街が広がっている。唐突にAさんが口を開いた、戻ってこないでね? 当たり前だ、と即答した。今更、あの不正と策謀と縁故で腐敗した<お友達部署>へ、はたして誰が戻ろうとするのか。罪人の仲間入りはごめんだ。雨はしとしと降り続ける。そのあと夢から覚めて、縁切りして思い出から葬った過去を想うて、万歳三唱したわたくし。
 ──作曲家と愛人の不義の結晶はわたくしの深層意識に働きかけて、顔を背けていた出来事を垣間見せ、もの哀しい思いと悔恨の思いを寝覚めの心に残していった。
 音楽はそのときの心にどのような影響を及ぼすか。いっときそんなことを考えてみもしたが、日々の諸事にかまけているうち忘れてしまった。もしこれらの夢を《トリスタンとイゾルデ》が見させたのなら、ならば《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は失脚と獲得、諦念と礼讃の夢をわたくしに見させるのだろうか──否、そんな単純な話ではよもやあるまい。
 子守唄はワーグナー作曲。いまは《ニュルンベルクのマイスタージンガー》、つぎは《ローエングリン》、《パルジファル》……。さて、わたくしはその夜、どんな夢を見る?◆

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