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第2596日目 〈横溝正史『迷宮の扉』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 横溝正史が執筆したジュブナイル小説はいわゆる<ヨコミゾ・ブーム>を承けて角川文庫に編入された。その際同じ作家の山村正夫によってリライトされたが、①文体を「ですます」調から「である」調に変更、②差別用語/表現等を書き換え、③章見出しの追加、④一部作品に於いて探偵役を由利先生から金田一耕助に変更、以上を大きな柱としている由。
 その後ジュブナイル小説群は角川スニーカー文庫に移籍して現在は全点絶版。うち幾つかの作品は21世紀になってポプラ・ポケット文庫で文体を「ですます」調に戻して復活したが、こちらもいまは版元品切れ状態となっている。しかしながら角川文庫のリライト版は今日でもKindleにて電子書籍版が購入可能だ。
 『悪魔の降誕祭』に続けて読んだ本書『迷宮の扉』は、そんなジュブナイル小説の角川文庫リライト版の1冊である。
 一巻の殆どを占める表題作は、遺産相続を巡る骨肉の争いに巻きこまれた金田一耕助の活躍を描く。
 粗筋を架蔵文庫の裏表紙から転記すると、──金田一耕助の行く所、必ず事件あり。三浦半島巡りを楽しんでいた金田一は、突然、嵐に遭い、竜神館という屋敷へ逃げこんだ。だがその直後、一発の銃声と共に誰かが土間に倒れこんできた。うつぶせになった男の背中の左肺部のあたりから血が噴き出していた。殺された男は、毎年この屋敷の主、東海林日奈児少年の誕生日に、カードを届け、ケーキを切りに来る黒づくめの男だった。不審に思った金田一が尚も聞き込もうとしたが、日奈児の後見人降矢木は、なぜか言葉を濁した……。/莫大な遺産をめぐる人々の葛藤をテーマに、完璧なトリックと緻密な構成で描く傑作本格推理──以上。
 んんん、なにやらわたくしのまとめた粗筋の方が良さそうな気がするが、長いから今回は割愛しておこう(←負け惜しみ)。
 その遺言状の内容や相続(予定)人を擁する家族間の相克など、かの『犬神家の一族』をわたくしは思い出してしまうのだが、こちらはそれよりもずっと軽量級。良くも悪くもこぢんまりとまとまっているのだけれど、それが却って幸いしたか、横溝正史の小説技法がぎゅっと詰まった一級品のエンタメ小説に仕上がっているのだ。かれのストーリーテラーぶり、ページターナーぶりは大人向けのミステリよりもこちら、ジュブナイル小説の方でより堪能できるというてよいだろう。
 本書は他に「片耳の男」と「動かぬ時計」という短編2作を併収する。どちらも毎年の贈り物が物語の中心となる点で共通するが、むろん内容にまったくつながりはない。前者は犯罪物、後者はファンタジーである。いい添えれば両作いずれもシリーズ・キャラクターの登場しない、ノン・シリーズ短編。読み切り短編であるのも手伝って2作には一切の夾雑物なし、寄り道なし、幕が開いたらあとはもうただひたすら結末へ向けて突っ走ってゆくのみ。言葉を選べば、勢いに満ちた作品である。
 某新古書店でなにを思うことなく購入した1冊だけれど、斯様な小説をこの度読めたことがとてもうれしい。横溝正史にこうしたジュブナイル小説があるってことを、不勉強な身ゆえについこの間まで知らなかったもの……。
 ──未読どころか本さえ手にしていないけれど、横溝のジュブナイル小説には<怪獣男爵>なる悪漢が登場するシリーズがある、と仄聞する。『迷宮の扉』でこのジャンルの愉しさを知ってしまった以上、遅かれ早かれそちらへも食指を伸ばすことだろうね。と思うてオークション・サイトを覗いてみると、やれやれ、バラで殆どの作品が出品されているではないか……! 大人向け作品と並行して、ゆっくり愉しみながら読んでゆこう。◆

 ◌初出
 「迷宮の扉」:『高校進学』昭和33/1958年01~12月号
 「片耳の男」:『少女の友』昭和14/1939年09月号(初出時題名「七人の天女」)
 「動かぬ時計」:『少年画報』昭和02/1927年07月号
 初出誌については「TomePage」内「横溝正史小説リスト」並びに横溝正史研究サイト「横溝正史エンサイクロペディア:横溝正史ジュヴナイル作品 -リスト補遺暫定版-」を参考とさせていただいた。記して感謝申しあげます。
 殊後者はわたくし自身横溝作品を読み進めてゆくにあたり他サイトと併せて常に恩恵を被っているサイトである。□
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